Dear Prince
1
どの国の都からも遠い、ある森の中。
その男はそこにある小さな小屋で独り暮らしていた。
人里離れた森に住むにはふさわしくないともいえる所作と、
おそらく見たものが驚くであろう整った容姿の持ち主だった。
彼の名は古泉一樹といった。
手慣れた様子で必要な家事を終えると、
彼は椅子に座り本でも読もうかと小さな台所から小さな居間へ移動していた。
一冊の本を手に取りながら、ふと彼はある想いを心によぎらせた。
ここから彼の物語は新たに始まることとなる。
#####
こうやって一人暮らすようになってからどれくらいたつだろうか。
ある大帝国の軍師を辞しここでひそやかに時を過ごし。
ただただ穏やかなこの暮らしも悪くはなかった。
だけど…。
決して消えない面影が
絶えず僕の胸を疼かせる。
いつか必ず結婚するあの人の側にいるのが辛くて
こうやって離れたのに。
もうあの小国の姫君と結ばれたかもしれない。
面食いの気があった彼だがあの姫なら気に入るだろう、
それほどにあの肖像画は美しかった。
「…はあ。」
でも、もし叶うなら…
今でも…。
彼をこの腕に…。
コンコン
ん?
今小さな音がしたような…。
気のせいかな、まさかこんなところに客が来るはずが…。
コンコン
…気のせいではないようだ。
それにしても随分と低い位置から音がするような。
扉を叩く音も小さいし、
もしかして倒れているのでは…。
正直厄介だが放ってもおけない。
仕方ないな。
そう思いながら扉を開けた。
「はい?」
だが視界には誰も写らない。
「あれ…おかしいな。」
そう思った次の瞬間、視界が反転した。
「うわっ?!」
急に倒れ込んだ僕の身体を、小さないくつもの身体が支えた。
「な…小人?!」
いつも穏やかに森深い場所で暮らしていると聞く
伝説の人種。
見たのも驚きだが、それ以前に今は。
「どこへ連れて行くんですか?!」
どうやら僕は誘拐されているらしい。
####
「でかしたわ!ユキ!」
しばらくして目的地に着いたらしい。僕はやや乱暴に地面に放られた。
僕はとりあえず誘拐の首謀者残る顔くらい見ておくかと、地面からゆっくり視界を上げた。
そこにいたのは、意外にも豪華なドレスを身に纏った美しい少女。
だが僕はもっと驚いた。
彼女の顔に見覚えがあったからだ。
「あなたは…ハルヒ姫…?」
彼女はあの人の婚約者候補の一人。
僕のいた帝国の、あの人がいずれ統べる国の隣国の姫だった。
彼女は僕の驚きをよそに言い放つ。
「あなた軍師よね?
あたしの隣の国がケンカ売ってきて困ってるのよ!
勝たせなさい。命令よ!」
彼女が何を言っているのか僕が理解するのに
しばらくの時間が必要だった。
To be Continued…
少々冒頭を書き加えまして、こちらも再録になります。
ただこれも途中なので再録は8話くらいまで。そこからは新作となります。
結構勢いで書いてますが、楽しいですvv
あのほのぼの童話をちょっとシリアスに捏造。
つじつまが合うようがんばりまーす。
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